2014年3月25日火曜日

Wonhyuk Holicについて!



ウォンヒョクシッパーの皆様、こんにちは。
幾万年かご無沙汰しております、Katieです。
パスワード請求の方も、今日中にお返事させて頂きますので、少々お待ち下さいね!
ぺこり。

そして今日は、とってもHappyなお知らせがあります!
ウォンヒョクの描き手さんと書き手さん達が集まって、リレー小説を始めました!
ババーン!
それも!Wonhyuk Holicという、ちまちま作り上げていたHP上で、です。
ウォンヒョクのHPでウォンヒョクの書き手さんとウォンヒョクリレー小説始めました!(しつこい!)

ウォンヒョクってまだまだ需要が無いので、この3年程は小さな輪の中で肩を寄せ合い…
供給作業を相互補完し合い…
いつの間にか、こんなにHappyなサークル的なものが出来上がりました。
その皆が一挙に集まって、一つの作品を作る事がで来た事が本当に私は幸せです。
光栄なのです。

諸々細かな情報は、HPの方に書いておきましたので是非皆様立ち寄り下さいませ!
 そしてじっくりとウォンヒョクワールドをご堪能下さい。
Wonhyuk is real!
是非是非ウォンヒョクの幸せを覗き見して下さい♡

取り扱いがナマモノゆえ、パスワード制をとっておりますが、
おそらくこのCPがお好きな方には簡単な物だと思います(*´∀`*)

注意書きもリンク先にガッツリ書いてありますので、しっかりお読みになった上で
ご了承頂き、お進み下さいませ。
※リレー小説の方は、各話にイメージBGMがついております。
どっぷり世界観に浸かりたい方は、PC環境をお勧め致します!

ではでは、皆様行ってらっしゃーい!

Wonhyuk Holic

いつも、応援有り難うございます。
サラハンダ♡

 Katie

2013年9月23日月曜日

Le Cirque Paradiso vol.3 -黒の外套とサーカス団-












「サーカスの天幕を一度くぐったならば
貴方は自分自身が何者であるのか忘れなければならない。


サーカスの空気を一度肺まで深く吸い込んだのなら
貴方は日々の出来事を全て忘れなければならない。


何故ならこれから貴方が目にするのは、それらを全て覆すような
めくるめく”非”日常であるからだ。


貴方の日常が、いかにもつまらく思えてしまうような
きらきらと妖しい危険な世界なのだ。


幻惑と、鮮やかなたくらみに満ちた
一生の宝物になる夜の魔法が、そこには張り巡らされている。」






「おしまい。」

「えーっ、おしまい?」

「そう、お話はここまで。」

「もっと聞きたい……」

「ふふ、お話の続きは、見に行こう。」

「見に?」

「そうだよ。ユナも見ただろう、先週、沢山の馬車や車が森を抜けて行くのを。」

「ジョンスお兄ちゃんと、お散歩の時に見た———?」

「そう、サーカスだよ。」

「サーカス!ほんと?あれがサーカス?行く!早く行こう!」

「今日から始まるんだ。」

「嬉しい!私、着替える!」

「うん、でもあんまり可愛いお洋服はダメだぞ?」

「なんで…?私おめかししたい。」

「だめだめ、あんまり可愛くて素敵な子は、連れて行かれてしまうんだから。」

「えっ!」

「サーカスの夢の魔法にかかってしまうと、目を瞑ってる間に攫われちゃうんだよ。」

「いや、ユナ、お兄ちゃんとお別れはイヤよ。」

「うん、僕もイヤだし。さ、着替えて!うるさい姉さん達の気付かない間に
二人で出かけよう」

「うん、うふふ…!あ、ねえ、お兄ちゃん————」

「うん?」

「あのね、もしかしたら———ドンヘも、そこにいるかしら。」

「ドンへは、そうだねえ、もしかしたら……。」

「可愛いから、ね、連れて行かれたのかもしれないもの。」

「でも…あんまり期待しちゃいけないよ。ドンヘみたいな子は、いつの間にかいなくなる事もあるんだ。」

「うん、分かってるよ……。着替えて来るね」

「待ってるよ。ああ、久しぶりの———サーカスだ。」









Le Cirque Paradiso vol.3 -黒の外套とサーカス団-
















漆黒の外套。

少しだけ透かしの入った、黒い丸眼鏡。

外套と同じ色のシルクハット。

甘いムスクの、エキゾチックな香り。


”Du "cirque", vous en voulez encore……”

"Bravo……bravo……"

"Encore……"


小声で、歌うように呟き、唇の端を上げてふうっと笑う。

黒い外套を着て、魅惑的な悪魔のような出で立ちでシウォンは
小さな街の商店街を闊歩していた。

「La vie……Cirques..」

肩で風を切るように、さほど寒くもないのにコートの襟を立てて裾を翻し歩く姿は
街の人々を威圧する。
しかし、この姿を一度でも見た事のあるものは、(運良く長生きをしている連中は、
2度は見た事があるかもしれない。)
この姿の現われた後に活気づく、にわかにお祭りじみた街の空気を覚えていて
微かに微笑みを浮かべたであろう。


「ラララ、ララ…」


シウォンは機嫌が良さそうに、街道の物乞いに微笑みと小銭を景気良く投げる。

巡業サーカス団ル・シルク・パラディソの、妖しくも美しき団長シウォン。

彼は興行のある街々で、必ず毎日教会へ赴く。

サーカスが街に着いてから、興行が始まるまでは大抵一週間ほどの準備期間が有り、
それまで殆どの団員達が
サーカスに籠り切りになるのに対してシウォンは毎日街へ出て行くので必然的に
街の顔なじみになる。
用事は協会へ行くだけなのだが、話題の種を作っておく事も大事な仕事だ。
基本的に見た目の威圧感に反して至極人当たりの良いシウォンは、
適度に街の人々と交流している。

「団長さん、今週は良い食材を大量に入れてあるよ。まかないにどうだい」

「後で使いを寄越そう。とっておいて下さいね、マダム。」

「あんたとこのブランコ乗りはセクシーかい?」

「実は新しいブランコ乗りなんですが、その艶やかな技ときたら猛獣共も
息をのんで唸るのを忘れる程で」

「ねえねえ、ゾウさんは居る?」

「残念ながらゾウは居ないが、きっと君の気に入る美しい動物達がお辞儀して
君を待っているよ。」

とまあ、こんな感じでシウォンは町中の人々に期待と愛想を振りまいて回っていた。
サーカスへの、街の期待はどんどん上がって行く。
退屈な田舎の街では、サーカス程の娯楽は中々無いものだ。

そしてサーカスの時期の、もう一つの楽しみといえば、きらびやかなサーカスの人々が
街の中に流れ込む事だ。
普通の生活を営むものではない、独特の華やかな雰囲気を纏った芸を持つ人々が、
日常に介入する。
そして、ル・シルク・パラディソ程の大所帯ともなるとそれは結構な数の
異邦人が街に訪れる事となる。

目を引くオレンジの髪の美しい女が酒場で歓迎のお礼にジプシーのダンスを踊ったり
退廃的な雰囲気の青年が街を歩けば、街娘達の格好の噂の的となる。
そういった事が、必ずサーカスの訪れる街では楽しまれていた。
そしてその期待を胸に、街の人々はサーカスを歓迎する。

しかし、基本的にはサーカスの一団は旅芸人のようなもので、
行く街々で芸をし、お金を貰う。
そういった昔から繰り返されている仕組みが染み付いた田舎の人々からしたら、
サーカス団というものは
珍しく自分達と同じ地位の異邦人であり、ともすれば自分達が優位に立てる
ものでもあった。
貧しい暮らしの中で、階級は勲章程にものを言う。
そう言ったものの風当たりを思いっきり食らう事もしばしばあり、
特にこの街では、季節ごとに訪れる高階級の貴族達の生活を間近で見ている人々の
鬱屈した不満などが、小さな不審感で爆発する事もあり得るのだ。

シウォンは、出来るだけこうやって先んじて飄々と街を出歩く事で、
そういった不審の種を摘み取って行く。
理由を考えれば面倒な事だが、シウォンはこう云った事を楽しんでやっている
節があった。
団内でも食えない性格で有名な、独特の物差しで考え行動する彼の全てに、
常人に分かり易い説明などついた試しがない。

身なりだけみれば、近寄りがたく妖しい雰囲気が漂う。
しかして黒いコートの中身は、完璧な程の肢体を隠し持った慈愛の微笑みをたたえる
美男である。
言葉にはある種の威圧感があるが、同時に海のような深みと穏やかさを併せ持つ。
無礼な言葉でからかいを口にする者に、一瞬だけ恐ろしげな表情を作ったかと思うと
大きな口をニッと広げて笑い、軽口でうまくかわしてしまう。

そんな彼の雰囲気と、美しい彫刻のような面差しについ恋心を抱く女は数知れず。
彼は優しく彼女達を抱いて、私は貴方にふさわしくありませんと耳元に囁いて去る。
それでもと彼を追う女達にはご丁寧に、彼女達を想い目で追っている男達の
存在を教え、彼らの想いを代弁する。

彼の歩いた後には、謎めいた陶酔と、説明のつかない憧憬のようなものが
尾を引いて道を作る。
そしてそれを追うように、人々はサーカスへと足を運んだ。

最初の興行を遂に今日の夕方へ控え、シウォンは今日も朝から、
教会へと出向いていた。

すると教会の入り口に、白いシャツに割と仕立ての良いダークグレーのズボンの
青年が座って本を読んでいる。
シウォンが気にせず教会に入ろうとすると、その青年が慌てて立ち上がり
シウォンを呼び止めた。

「あ、待って!」

「———?」
無言でシウォンは小首をかしげ、眼鏡を外す。

「団長さん、あ、えーと団長さんで良いかな?」

「ええ」

「実は君を待ってたんだ」
シウォンは無言で微笑み、先を促す。

「サーカスにね、今日行こうと思っているんだけど、あの、と———」
青年は早口でまくしたて、一度口ごもり、何かを逡巡した。

「虎は、いるかな……。」

「虎……ですか?」

「あ、変な質問だと思うんだけど、いや、実は小さい頃に一度ね、
ル・シルク・パラディソサーカスを見た事があるんだ。
その時に出会った虎がいるかなと思って、て……」

「そうだったんですか。うちには虎が3頭居るんです。どの虎かな……」

「男……いや、雄だったと思うんだよなぁ……」

「ああ、あいつかな。貴方の幼い頃だと、30年程前ですか?」

「あ、やだなあ、僕はまだギリギリ20代だよ…」

「冗談ですよ。」
シウォンはふ、と息を吐いて笑うと、ポケットから紙切れを差し出した。

「お昼の公演ではなくて、夜、いらして下さい。特別な公演をしているんです。
きっと貴方のお探しの虎に会えると思いますよ。」

「ほんとかい!?ああ、嬉しいな、あいつに会えるのか。ああ、嬉しいな、
肉でも差し入れに持って———
あ、夜……、夜の公演か。あの、それって……妹も連れて行きたいんだけど、
その、大丈夫かな?」

「勿論です。私達は子供の怖がるような出し物はしない主義ですから、
安心していらして下さい。」

「そうか、なら安心だ。嬉しいな……」
青年は、本当に嬉しそうに、えくぼの現われる美しい微笑みを浮かべた。
そして、渡された紙切れに描かれた火の輪をくぐる虎の絵を眺めて、
感慨深そうに絵に指を這わせる。

「———ちょっとだけ色っぽい場面があったら、妹さんの目を覆ってあげると
いいでしょう。では、お待ちしております。私は暫し神にご挨拶を。」

「っああ!そ、そうだね。———引き止めちゃってごめん。楽しみにしてるよ!」
青年は少し恥ずかしそうに口に手を当てて苦笑した。

「では、失礼。」

「あっ、そういえば、君のとこに犬は居る?」

「犬の芸ですか?」

「妹が、とても犬が好きなんだ。それに———」

「うちは犬の出し物はやって無いんです。残念ですが。」

「そっか、有り難う」

顔の横で小さく手を振る青年へ微笑みを投げかけると、
シウォンはまた眼鏡をかけ直し、教会の中へと入って行った。



To be continued... 

2013年9月13日金曜日

Le Cirque Paradiso vol.2 -暗闇の狼と少年-
























「———ポアソンまで、準備出来た?」






リョウクは、スパイスと調理された肉の良い香り、それに香ばしい湯気に満ちた炊場で、
忙しなく働いている女達に声をかけた。

一番大きな、舞台の広がるショーテントの裏側に群れをなす、キャラバンカーや
テントの狭間に位置している、即席の炊場。



「はいはい、ヴィヤンドまでバッチリですよ!中々に良いジビエが手に入ったからね。」

白いエプロンの女中然とした女が、銀の燭台の載った台車を押しながら、
片手で即席のレンガ窯の中を指差しウィンクをする。


「みんなの分はどう?」


小さく頷いてリョウクが再び尋ねると、キャラバンカーの中からちょうど、
真っ赤な色をした長い髪の少女が腕一杯にベーコンとマッシュルームを抱えて
慌てて躍り出て来た。


「ア、ンバーちょっと、鍋!蓋を閉めて!」
少女は腕の中の食料の重みでよたよたとバランスを崩しつつも、香辛料や野菜、
フルーツが沢山載った木台の横で、グツグツと中身が溢れ出しそうな大鍋へと
駆け寄っていく。


「ごめんごめんごめんっ!」
突然机の下から声がしたかと思うと、そこからぬっと、一見少年のような少女が
姿を表し急いで大鍋に蓋を被せた。

「ちょっとソーセージが……転がって行っちゃって、へへ」

木台に荷を載せ終わった赤い髪の少女は、「味はサイコー、準備は万事問題ない。」
リョウクに向かって自慢げに宣言する。


「クリスタルの力作」
と、アンバーが笑うと、赤い髪の少女、クリスタルは思い切りアンバーの
お尻をつねった。
「いでっ!」
「アンバーのせいでダメになるとこだった!」


じゃれ合う
2人を眺めながら、リョウクはゆっくりと大きく息を吐き、女中風の
———料理長の女に
「ご苦労様です」と微笑んだ。


「リョウクさんこそ、ご苦労様。団長さんのご機嫌どうだい?」


 「まあ、多分、ヒョクチェと一緒だから」

 
「そんならきっと最高だ!」
 陽気に笑う女に苦笑いを返すと、リョウクは炊場を後にする。

 食事の監督は リョウクの大事な仕事だ。



 そして——————

夕食の前に、リョウクにはまだいくつかの仕事が残っている。

 紫色のふわふわの短い髪を指で梳きながら、テント群を奥へ奥へと進んで行った。

 
暫くして、赤い、一際目立つテントの前に立つと、リョウクは「兄さん」と
呼びかかける。


「入るよ!」

灯りの無い薄暗いテントの隅には、大小のカラフルな輪っかや燃料が置いてある。

そしてそれらの中央には、真紅の布に覆われた大きな鉄の檻。

ショーに出る他の獣達が集められているわけでもなく、そこに居るのは獰猛そうに
低く呻き続ける———ただ一匹の大狼だった。


リョウクは壁の蝋燭に一つだけ火を灯すと、そっと、狼を刺激しないように檻に
近付き寄り添う。


「ごめんね、遅くなっちゃった。僕の手が中々空かなくて。」



狼は、檻の中で小さく唸りながらうろうろと動き回る。

檻に掛けられている、金の房の縁取りが施された真紅のビロード布をするりと
落とし、リョウクは深く息を吸い、吐き出した。

グラスハープのような、軽やかな声と共に。

何処の国のメロディか分からないような……長い旅の間に覚えたであろう、優しくて
懐かしい。

どこか物哀しいメロディを。



リョウクは冷たい檻を抱きしめるように覆いしなだれて、
その中の存在を撫でるように、歌った。

すると徐々に狼の低く恐ろしげな声は、リョウクの歌声に混ざり
……いつの間にか、唸りから囁きのような声に変化していた。


リョウクは微笑んで、歌いながら檻の鍵をあける。

檻の中の囁き声は徐々に途切れ、少しだけ苦しそうな喘ぎになる。


そして


獣のものだか、人間のものだか判然としない低い咆哮が聞こえ、ふ、と蝋燭の火が
消えた。

しかし火が消え切る前の一瞬、檻は青白く光るような手が素早く突き出されていた。

その腕はリョウクの緩く弛んだ白いブラウスごと細い手首を鷲掴み、檻の中に引き込む。



「あ



「リョウガ……



————闇と静けさが、暗い檻を包み込んだ。






Le Cirque Paradiso vol.2 -暗闇の狼と少年-




 















「————誰だ」




ドンへは震え上がった体を両手で掻き抱くと、そばにあった大きなキャビネットの
影に身を寄せた。

咄嗟にそばにあった布を頭から被り、布の隙間から様子を伺う。


豪奢で刺繍のたっぷり施された天幕がふわりと持ち上げられる。

そして、背の高い、上半身をさらけ出したままの美しい男がドンへのいる空間へ
ゆったりと現れた。



ドンヘが身を小さくしてそれを眺めていると、男は微かに笑い「——誰もいない」
と言った。


天幕の中から、鼻にかかったような気だるい声が「じゃあ戻れよ」と男を呼ぶ。


「人がいると思ったのになあ。」


男は一瞬考えるように顎を撫でると、そばのスツールにあるパイプ煙草を手に取る。
形状でパイプだろうと思ったが、なんとなくエキゾチックな、見た事の無い形をしていた。
煙草の葉をパイプの先端に詰め、近くの蝋燭から火を借りると、男はふうっと
煙草をふかす。
その姿はまるで絵画のように綺麗で、ドンへは目が離せない。

艶やかに撫で付けられていた名残はあるけれど、くしゃりと乱れた少し灰緑がかった
黒い髪。
浅くブロンズ色に灼けた、ダビデ像のような神がかった肉体。
その体に、黒い革製の足首までタイトなパンツだけを身に着け、ベルトは弛んでいる。
それまでその空間で行われていた行為を想起するには充分の様相で、ドンへは一人、
全身に汗をかいた。


「何してんの?」


また、中から声が聞こえる。


「早く」


焦れたように、少しの甘ったるさを感じさせる声色。
男はその声を聞き、満足げに微笑んでいた。


「ヒョクチェ、こっちにおいで。」


「やだ、めんどくさい。」


男は更に微笑みを広げ、ドンへのすぐ脇にあったシルクハットを掴み上げて
全身鏡に向かい、綺麗な角度でそれを被る。
全身鏡はちょうどドンへの正面にあり、なんだか鏡越しに存在を見透かされている
ような気がして心臓が止まりそうになる。


「聞き分けが悪いな、ヒョクチェ。鞭が欲しいのか?」


「なんだよ!」


奥から、短い叫びのように声が響くと、再び天幕が持ち上がりもう一人が出てくる
気配がした。


ドンへはギュッと目を瞑る。


きっとこちらが恐ろしい影のヤツだ!背の高い男は普通の人間だった!
だからこちらが、悪魔か何かなんだ!


「せっかく良い所だったのに!!シウォン、ちょ———」


足音だけがドンへのちょうど前辺りまで辿り着くと、捲し立てられていた声がぴたりと
止まる。


「……——ん、っうっ、ぐ」


なんだか苦しそうな声が聞こえて、ドンへは反射的に瞑っていた目を開ける。

するとそこには、ピンク色の後頭部の髪を思い切り捕まれ、唇を奪われている
獣の姿があった。




先程の男は、力強い腕で獣の全ての動きを封じ、獣の美しい唇に煙管の煙を
吹き込んでいる。

煙の苦しさと、口付けの荒さに体を震わせている———獣は、人の姿をしていた。

血管が透けるほどの上気した真っ白な体に、気だるい熱さが汗を滲ませて。
抵抗しようともがく四肢は、美しく筋肉を張りつめさせ、でもどこかブロンズ色の
肌の男に縋るようで。

視線の全てを集めてしまうような、極彩色のピンク色の髪。
その両側には、豹の模様の耳が顔を出していた。
ピク、ピクと獣が降参したときのように半ば伏せられ、震えている。
圧倒的な体格差で、男の太腿に膝を割られ、獣はそこに体重を預けるような形に
なっていた。

ピンと逆立った同じく豹の模様をした尾は、唇を乱暴に吸われる度に
ゆらりと淫媚に揺らされる。


「…———っ!」


苦しそうにもがくも、その度に膝で緩く体を刺激され、脱力する。
何度かそんな拮抗を繰り返した後、豹の男が渾身の力を込めて、ブロンズの男を
押し戻した。


「ッ何考えてんだよ!」


口の端から零れる唾液を手の甲で拭いながら、頬を染めて肩で息をする。


「お前がすぐに言う事を聞かないからだ。それに————」


シウォンと呼ばれたその男が、大きく笑った。


「ちょっとからかったんだよ。」


「は!?何で俺をから……」


言葉が終わらないうちに、男が大股にこちらへと歩いて来る。
まずい、という言葉が脳内に浮かび切る前に、ドンヘを覆っていた布を取り払われ、
まるでマジックショーよろしく、ドンへは豹の男の前にその姿を表す。


「こちらの、お客さんをね。」


「あ……」


「……なんだ、こいつ」


「あ、あの」


震える声で、ドンへは勇気を振り絞る。


「た……」
喉に張り付いた言葉が、唇から中々出て来ない。


「なぁ、可愛らしいお客さんじゃないか?」


その間も、二人はドンヘを眺めながら会話を続ける。


「客……ってか……」
ピンク色の獣は、唖然とした顔でドンヘを見つめ降ろす。


「た…た、たた、たべないで!!!」
言えた!と、泣きたいくせに笑いまで込み上げて来たような訳の分からない
表情になり、二人を見上げる。


「はは、やっぱり可愛いなあ。ヒョクチェもそう思うだろ?」
シウォンが、満面の笑みでドンへの頭を撫でる。


「……何でこんなとこにいるんだ、お前」


「あ、あの、あの……」


「俺達を覗いてたのか?———ん?」


「違う!いや、のぞ、のぞいたけど、そんなつもりじゃなくて、」
じわり、と涙が出てくる。
そうじゃなくて、連れて来られて。
雰囲気に気圧されて、声が出ない


「うるさいな、なくな」
獣が顔を顰める。それに萎縮して、ドンへは更に涙を零した。


「何にせよ、サーカスの裏舞台に入り込むなんて悪い子だ。罰を与えなくちゃ。」
シウォンが笑う。


「サーカス……」
ドンへは、ああ、サーカスだったのか、と思う。

「はぁ。入り込んだ場所が悪かったな。でも、———罰は別にいいだろ。」
なんだか哀れんだような目で、獣がこちらを見る。

「なに、意地悪はしないさ。ちょっとここで働いてもらおう。」


「はぁ!?」
「えっ!?」


シウォンのいきなりの提案に、獣もドンヘも驚きを隠せず、素っ頓狂な声を上げた。


「仕方無いだろう?見られたんだから……」


「こんなやつに見られたからって何だよ!気でも狂ったのかよ」
二人は押し問答を始める。
しかしシウォンと呼ばれた男の方は、もう決意を変えないような調子で、微笑んでいた。


「いいんだよ、それで。」

———でも、家族が

「おい、こいつにだってきっと突然居なくなれば心配するやつらがいるだろ!」
自分を食べてしまうんじゃないかと思っていた獣が、ドンヘをかばっている。
恐ろしいのは、人間の方だった。


「大丈夫だ、誰も心配しやしないさ。」

「……っ」
家族や、仲間は、俺が、いなくなったら……?

「なあ、シウォンどうしちゃったんだ。なんでそんな———」

「世界はいつもそうなんだ。分かるだろ?ヒョクチェ。」

「……」

シウォンが、ドンへの頭を優しく撫でると、「不安そうだな、心配ない。
簡単な仕事をあげるよ。」と、囁く。


「あ、の、でも……」


「なあシウォン、こいつ」
ピンク色の髪がドンヘに近寄り、まじまじと顔を覗き込んで来る。
そして、形の良いツンとした鼻をひくつかせ、怪訝な顔をした。


「そうだな。」
シウォンはそう言って、「彼はここに居るべきだ」とヒョクチェと言う名前らしい
獣に言う。


「————知らないからな。」
そう言って、ヒョクチェ、は獣らしく小さく唸ると、立ち上がり踵を返して
テントを出て行った。
立ち去り際に香った、なんだかピリッと鼻孔をくすぐるような甘酸っぱい柑橘系の
香りに思考回路がぼーっとする。


「さあ、そこから出て、ついておいで。」


「ごめんなさい、でも俺帰らないと……」


「お前、一体どうやってここに来たんだ?」
シウォンは、ドンへの言葉を無視して穏やかに話し続ける。


「ミーミさんが……」


「ミーミだろうな。そうだろう。」


「はい……」
選択の余地はない、ドンへは、そう感じた。
みんなが心配するとか、仕事の自分が抜けた穴は、とか、色々な事を考えたけれど
テントの中に漂う怪しげな香炉から発せられる甘い香りと、むせかえる蝋燭の火の香り
そして突然自分の身にふりかかった
あまりの不思議な出来事に、ドンへは”シウォン”に従う事しかできなかった。







To be continued... 





※Special Thanks to 唄さん、しきさん、しゃなさん

作中のイラストは、唄さん () による作品です。
全ての権利は唄さんに帰属します。
唄さんのご協力に心より感謝いたします!

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